ぼくが考えたこと。

ぼく(28才、フリーター)が一生懸命考えたことについて。極個人的。

八本脚の蝶と、二本足で地面を踏みしめ生きる私

二階堂奥歯さんという方の、『八本脚の蝶』という本を読んでいます。

二十五歳という若さで自ら命を絶った筆者が、亡くなる直前まで綴っていた二年間の日記がそのまま本になったもの。

 

はっきり言って、興味本位で買いました。

だって、自殺した人が直前まで綴ってた日記なんて、普通に生きてたら読めないじゃない。

猟奇殺人とか、自殺とか、グロ画像とか、そんなのに惹かれる中二病の名残みたいなものを引きずりながら、嬉々としてこの本を買ってきたんですよ。(ちなみに、同時に『完全自殺マニュアル』も購入するという徹底ぶり。俺がジュンク堂書店の店員だったら、この二冊同時購入の客は飲みの席での笑い話にしていると思う。)

 

そして、仕事の合間に、あるいは文章を打ち込んでいる合間にちらちらと読んでいるのだけど、これがもうすごい。

最初の方なんて、全然自殺の兆候も見えない、普通の日記が続くのだけど、その時点ですんげえ面白い。

読んでいる小説に影響されてコルセットをクローゼットから取り出してみたり、アノマロカリスのフィギュアが欲しくなったり、好きな洋服や化粧品について嬉々として語ったり。

 

もちろん、二階堂奥歯さんが読んでいる小説を俺は読んだことがないし(そもそも読書量が桁違いだったりする)、アノマロカリスのフィギュアが特別欲しいわけでもないし、化粧品も洋服のブランドも知らないものばかり。

それでも、読んでいる小説に影響されて香ばしいことをしてしまうのも、クオリティの高いフィギュアを見つけると無駄に欲しくなってしまうのも、内向的な趣味をたしなみながらもオシャレを楽しみたいって思う気持ちも、すんごいよくわかる。それでいて俺と同じ洗顔料を使っていたりするので、もうびっくり。

 

なんというか、文章を読んでいるとそこに二階堂奥歯さんが生きていたことを強く意識する。

もちろん会ったこともないし、年齢もかけ離れている。読書や映画の趣味だって同じだとは言えない。

それでも、二階堂奥歯さんという女性がたくさんのものに興味を持ち、それらを心から愛していたことは文章を読んでいるだけでわかる。

自分が本当に好きなものについて、本気で語ってくれる人の言葉は、それだけで楽しい。自分の好きなものを、こうして声高に叫んでくれる人なんて、身近な友達にもいないもの。そもそも身近な友達がほとんどいないのだけど。

 

そして、気が付いたらスマホの検索履歴が二階堂奥歯さんの日記に出てきたものばかりになっている。

 

death of the reprobate

岡崎京子 Pink

食用人造少女 美味ちゃん

誘惑者 高橋たか子

外科室 泉鏡花

石井輝夫

 

まだ最初の60ページくらいしか読んでないのに、もうこんなに出会った。

まだまだ日記は続くから、きっとまだまだ出会える。でも、二階堂奥歯さんには、絶対に会えない。それが何だか悲しいと思っちゃうくらいには、すでに二階堂奥歯さんのことを好きになっている。

俺が勝手に顔も知らない二階堂奥歯さんのことを好きになっているだけなので、こんなことを考えるのはおこがましいけれど。

ぜひ会ってみたかった。お話してみたかった。そう思う。

これを読んだのが諸々こじらせていた思春期だったら、俺の初恋は顔も知らない二階堂奥歯さんだったかもしれない。

 

 

 

だから、俺もちゃんと日記付けてみようと思うんすよ。

二階堂奥歯さんが小説読んでわざわざコルセットを引っ張り出してきたみたいに、俺も二階堂奥歯さんの影響で日記をつけてみてもいいんじゃないかなって。

もちろん、こんなに長くなくてもいい(現時点で1400字超えてる)。内容が下らなくてもいい。誰にも読まれなくてもいい。意味なんてなくてもいい。

それでも、とりあえず書いてみよう。

それはきっと個人的な日々の記録にしかなりえないし、ネット上でわざわざ公開する意味も持たない駄文ばかりになると思う。でも、それでも、いつかの自分が今の自分の気持ちをなるべく鮮やかに思い出せるように、こんな夜中に二階堂奥歯さんに思いをはせているときの気持ちの肌触りを思い出せるように。そして、あわよくば将来の自分にとって、何かの種になりますように。

あわよくば、俺が死んだ後に誰かが本にしてくれたらいい。本になる程面白い文章なんて、もちろん書ける気がしないけれど。いや、そもそも俺はまだしばらく死んだりしないぞう。予定では。

 

今回は二階堂奥歯さんにだけスポットを当てたけど、直近ならしまだあやさん、燃え殻さん、Fさん、鈴木涼美さん、プロ奢ラレヤーさん、たくさんの人からたくさんの言葉をもらってきた(全部Twitter)。

言葉の力を信じてて、言葉の力に助けられてきて、だからこそ言葉の力で何かを為したいと思っているなら、まずは自分でも言葉を発信しないとね。

 

 

この文章を、二階堂奥歯さんに捧げる。

 

なんて、口が裂けても言えねえ。捧げる価値もない言葉ばっかりしか吐き出せない今の俺には。

いつかは、胸を張ってそう言えるように。

なったらいいんだけどね。